防露工事

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防露工事とは何か?― 水滴がもたらす深刻なリスクを防ぐ技術

施設運営において「結露(Condensation)」は、単なる不快な現象ではなく、設備や建物の寿命、さらには安全性や生産品質までも脅かす「静かなる脅威」です。防露工事とは、この結露の発生を物理的・工学的に抑制・防止するために施される専門的な技術介入の総称です。ここでは、そのメカニズムと放置した場合の深刻なリスクについて詳述します。

結露発生の物理的メカニズム

空気は、その温度に応じた一定量の水蒸気を含むことができます(飽和水蒸気量)。温度が高いほど多くの水蒸気を含めますが、何らかの理由で空気が冷却されると、飽和水蒸気量が低下します。その結果、含みきれなくなった水蒸気が液体(水滴)に変わる現象、これが結露です。

露点温度(Dew Point Temperature)

空気が冷却されて結露が始まる温度のこと。

発生パターン

表面結露

物体の表面温度が、接する空気の「露点温度」を下回った場合に、その表面で発生します。(例:冷水配管の表面)

内部結露(壁体内部結露)

壁や断熱材の内部に湿った空気が侵入し、内部の温度が低い箇所(露点温度以下の層)で結露する現象。非常に厄介で、構造体を内側から腐食させます。

結露が引き起こす設備トラブルと甚大な損失

「たかが水滴」と軽視すると、以下のような連鎖的かつ深刻な問題に発展します。

設備の腐食・劣化の加速

金属の腐食
配管、ダクト、支持金物(サポート)、ボルト類が恒常的に湿潤状態に置かれ、急速に発錆・腐食が進行します。
異種金属接触腐食(電食)
結露水が電解液となり、異なる金属が接触している部分で腐食が促進されます。
構造体へのダメージ
結露水が鉄骨や鉄筋コンクリートのスラブ(床)に浸透すると、鉄筋の腐食・膨張を招き、コンクリートの「爆裂(はくれつ)」や強度低下を引き起こします。

カビ・細菌の繁殖による衛生環境の悪化

カビ・細菌の繁殖
結露による高湿度環境は、アスペルギルス(麹カビ)などの真菌類や細菌の絶好の繁殖場所となります。これらが放出する胞子や代謝物は「室内空気質(IAQ: Indoor Air Quality)」を著しく悪化させ、アレルギー疾患やシックハウス症候群の原因となります。天井裏や壁内など、目に見えない場所での繁殖は特に危険です。

電気系統のトラブル(漏電・火災リスク)

漏電・短絡(ショート)・火災
結露水が制御盤、分電盤、配線(ケーブルラック、電線管)に滴下・侵入すると、「絶縁抵抗の低下」を引き起こします。これが「漏電」や「短絡(ショート)」の原因となり、設備の誤作動や停止、最悪の場合は「トラッキング現象」による火災に直結します。

製品品質への影響(特に製造業・物流業)

HACCP / GMP対応の障害
食品工場(HACCP)や医薬品工場(GMP)において、天井からの結露水の滴下は、製品への重大な「異物混入(汚染)」とみなされます。
品質の劣化
倉庫や保管庫での結露は、製品(特に紙製品、電子部品、穀物など)の濡れ、変質、カビ発生の原因となり、大規模な品質クレームや廃棄ロスに繋がります。

防露工事の役割と重要性

防露工事の根本的な役割は、「対象物の表面温度を、周囲空気の露点温度以上に保つこと」、または「湿った空気が、露点温度以下の対象面に接触するのを防ぐこと」です。

これは、設備の「予防保全(Preventive Maintenance)」において極めて重要な施策であり、施設の「ライフサイクルコスト(LCC)」を大幅に低減させるために不可欠な投資です。

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防露工事の具体的な種類と施工方法

結露を防ぐためには、熱の移動と湿気の移動を同時にコントロールする必要があります。現場の状況、要求される性能レベルに応じ、複数の工法を組み合わせて最適なソリューションを構築します。

1 断熱材による防露(熱抵抗の付与)

原理
断熱材(熱伝導率の低い材料)で対象物(配管、ダクト、壁など)を被覆し、「熱抵抗(R値)」を持たせます。
目的
  1. (冷たい対象物の場合)断熱材の外表面の温度を上昇させ、周囲空気の露点温度以上に保つ。
  2. (高温の対象物の場合)断熱材の内部に高温の空気が侵入しても、露点温度以下になる層を作らないようにする。
重要ポイント
  • 適切な厚みの選定: 対象物の温度、周囲の温湿度条件、許容される表面温度から、必要な断熱厚を正確に計算します。
  • 熱橋(ヒートブリッジ)の防止: 断熱材の目地(ジョイント)や、支持金物(ハンガー、サポート)部分など、断熱が途切れる箇所(熱橋)は、結露の最大の弱点です。これらの部分には、木材や硬質ウレタンフォームなどの熱伝導率が低い材料で「熱橋防止」の処理を施すことが不可欠です。
使用材料
グラスウール、ロックウール、発泡ポリスチレンフォーム、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォーム、ポリエチレンフォームなど。

2 換気・除湿システムによる環境制御

原理
結露の原因となる室内の「絶対湿度」そのものを低下させ、空気の「露点温度」を下げるアプローチです。
方法
  • 強制換気: 湿気が発生しやすい場所(地下ピット、倉庫など)に機械換気(給排気ファン)を導入し、高湿な空気を排出します。
  • デシカント空調: 除湿ローター(吸着剤)を用いて空気中の水分を直接除去する「デシカント(除湿)空調機」を導入し、低湿度環境を維持します。
  • 全熱交換器: 換気時に排出する空気の「熱」と「湿気」を回収し、取り入れる外気に移すことで、省エネを図りながら湿度コントロールを行います。

3 その他の工法(複合的対策)

表面加熱(ヒートトレース)

結露が特に発生しやすいバルブ、フランジ、計器類などに、電気ヒーター(トレースヒーター)を巻き付け、表面温度を強制的に露点温度以上に保ちます。

防露塗料(断熱・調湿)

断熱性能や吸放湿性能(調湿)を持つ特殊な塗料を塗布し、表面結露を一時的に抑制・緩和します。ただし、これは対症療法的な側面が強く、根本対策には①②との組み合わせが必要です。

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防露工事が不可欠となる場所・設備

防露工事は、「冷たいもの」と「暖かく湿った空気」が出会うあらゆる場所で必要とされます。特に以下のような施設・設備では、標準仕様として組み込まれています。

冷凍・冷蔵施設(低温物流倉庫、食品工場、スーパーマーケット)

マイナス温度帯の「冷凍庫」とプラス温度帯の「冷蔵庫」、そして「荷捌き室(常温)」が隣接するため、壁・天井・床において熾烈な結露リスクが発生します。

特に床スラブ下の「凍上(とうじょう:地中の水分が凍って膨張し床を破壊する現象)」防止のための床下断熱・防湿は最重要項目です。

空調(HVAC)システム全般

冷風ダクト(給気ダクト)
ビルや商業施設の天井裏で、冷たい空気を運ぶダクトの外表面は結露の常習箇所です。
冷水配管(チラー配管)
空調機(エアハンドリングユニット)やファンコイルユニット(FCU)に冷水を供給する配管。
ドレン配管
エアコン内部で発生した結露水(ドレン)を排出する配管自体も低温になるため、防露が必要です。

冷却水配管(プロセス冷却)

データセンター
サーバーを冷却するための「精密空調」で使用される冷水配管。結露による水滴は、IT機器にとって致命的です。
工場
製造プロセス(成形機、反応釜など)を冷却するためのチラー冷却水配管。

地下施設・倉庫(地下ピット、共同溝、地下駐車場)

地中に接するため温度が低く、かつ地中からの水分(浸透水)や外気導入により湿度が高くなりがちなため、外壁や床、天井での結露リスクが極めて高いエリアです。

その他(特殊環境)

クリーンルーム / バイオロジカルクリーンルーム
厳格な温湿度管理が求められるため、結露による発塵や菌の繁殖は許容されません。
温水プール / 浴場施設
常に高温多湿の空気が、外気に冷やされた壁や天井に触れるため、室内側での結露対策が必須です。
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防露工事がもたらす施工効果と経営的メリット

適切な防露工事は、短期的なトラブル回避だけでなく、中長期的な施設運営の安定化とコスト最適化に直結します。これは「コスト」ではなく、将来の損失を防ぐ「投資」です。

MERIT1

設備寿命の延長(アセット・ロンジェビティ)

  • 結露による腐食や劣化の進行を劇的に遅らせることで、配管、ダクト、空調機器、さらには建物躯体(鉄骨・鉄筋)といった高額な資産の耐用年数を大幅に延長します。
  • 「長期保全計画」の実現と、大規模改修コストの先送りに貢献します。
MERIT2

メンテナンス費用削減(OPEXの最適化)

  • 結露が原因で発生する突発的な修繕(漏水対応、腐食部分の交換、電気系統の修理など)を未然に防ぎます。
  • 「事後保全(CM)」から「予防保全(PM)」への移行を促し、年間の運用保守コスト(OPEX)を平準化・削減します。
MERIT3

衛生環境の維持・改善(コンプライアンス遵守)

  • カビ・細菌の発生源を根本から断つことで、「室内空気質(IAQ)」を高いレベルで維持します。
  • HACCPやGMPといった衛生管理基準の遵守、労働安全衛生法の要求事項(快適な職場環境)の達成をサポートします。
MERIT4

作業効率の向上と労働災害防止(リスク管理)

  • 結露による床の水濡れ(スリップ事故)、悪臭、不快な温熱環境(多湿)を改善し、従業員が安全かつ快適に働ける環境(サーマルコンフォート)を創出します。
  • これにより、労働生産性の向上と、労働災害リスクの低減が期待できます。
MERIT5

エネルギー効率の維持(省エネルギー)

  • 断熱材は、湿気を含む(湿潤する)と「熱伝導率(λ値)」が急激に上昇し、本来の断熱性能を著しく失います。
  • 防湿層を完璧に施工し、断熱材をドライな状態に保つことで、空調エネルギー(冷熱)のロスを最小限に抑え、設計通りの省エネ性能を長期にわたり維持します。

施工実績

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